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ル・ゲソ

備忘録など。

ブラックサッド 黒猫探偵


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ブラックサッド 黒猫探偵

作:フアン・ディネス・カナレス

画:フアンホ・ガルニド

訳:大西愛子

 

人を動物に、動物を人になぞらえた作品は数あれどフアンホ・ガルニドの描く擬人化された動物はひと味違う。それは19世紀の挿絵画家グランヴィルの生み出しだ「グランヴィル動物」(この言葉は鹿島茂によるものである)の様にまるで動物が我々人間と同じ様な進化を辿り人型を模したのではないかとも思えるもので、動物化した人間とも、人間化した動物とも違う。よってこの作品に於いて「擬人化」という言葉を用いるのはいささか不適切と言えるかもしれない。


彼らは私たちと同じように仕事をする。友人と談笑もするし、日頃の不満を寂れた裏路地にある飲み屋で発散することもある。トカゲなどの爬虫類と哺乳類の間に種族間の対立も散見され、多少のいざこざも見られる。彼らの世界はまるで私たちの日常と変わりない。この作品「ブラックサッド」はそんなグランヴィル的アナロジーによって作られたもうひとつの世界(Un Autre Monde)で流れる日常の一端を切り取り、上映するものである。

 

 

話は、主人公黒猫探偵ブラックサッドのかつての恋人で女優のナタリアが、銃で額を撃ち抜かれ殺害されるところから始まる。


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人前では失意を巧く取り繕う彼だが、どうやら別れた後も彼女のことを気にかけていたようだ。


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知り合いの刑事にこの件には首を突っ込まぬよう釘を刺されたが、事件の真相を探るべくブラックサッドは一人捜査を始める。

 

この作品は全編水彩で描かれており、どこか淡い泡沫のイメージを与えながらもその鮮やかな色彩はほのかなノスタルジーすら薫らせる。


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主人公の内語を表す吹き出しが背景と同系統の色で塗られ、彼の存在があくまでマンガの中の存在であることを強調しているのもその少しの哀愁の一因かもしれない。

 

話を戻そう。
まず、ブラックサッドは旧友でかつてのナタリアのボディガード、ジェイクからレオンという男の存在を知らされる。レオンはナタリアの最後の恋人でその後の調査によるとどうやら行方不明となっているようだった。

 

レオンが失踪したという情報を得た彼が霧に覆われた街を歩いていると、見知らぬトカゲの男が突如襲いかかってくる。なんとか撃退できたものの捜査に関する情報を得ることは出来なかった。


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ところ変わって薄暗いごろつきの集まりそうなバーだ。多くの種族が暗い面持ちで酒を呷り、煙草をふかす。


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ブラックサッドはバーのマスターにレオンという人物に心当たりがないか聞くが有力な手がかりは得られそうにない。そんな時、隣に座るどこか怪しい雰囲気の男から「礼をしてくれればレオンの居場所を教えてやる」と話を持ちかけられ、二人はある場所へと向った。

 

男に案内され辿り着いたのは墓地、そこあるのは"Noel Krisnok"と書かれた墓で、レオンはすでにそこに眠っているのだという。"Leon Kronski"の簡単なアナグラムだ。ブラックサッドが事件の真相を追い求め見つけたものは、名すら奪われ、人知れず薄暗い墓地に眠る悲しい男だけであった。


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このまま捜査は行き詰まりかと思われたが、思いがけず真相へ辿り着くための大きな一歩を踏み出すこととなる。

 

それは知人の刑事との会話に端を発する。警察は捜査を進める中でかなりの有力者に近づいたらしく、上層部からはナタリア殺害事件のもみ消しを命じられたらしい。しかしその知人の刑事はブラックサッドに事件の真相を追求するよう頼む。彼は「まだ青いのだ」と自嘲し、自信の正義を夢想する。


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ここからはブラックサッドの快進撃だ。再び襲撃してきたトカゲの男から情報を得ると、その情報を元に真犯人の元へ向かう。
ここでは割愛するが、このトカゲの男とブラックサッドの対決シーンは西部劇をも思わせる緊張感、元ディズニーのアニメーターであるガルニドだからこそ描ける躍動感のある動き、わずか数秒の間の出来事だがこちらも息を止めてのめり込んでしまう。


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対決後の語りも込めて、屈指の名シーンである。

 

その後ブラックサッドはトカゲの男から得た情報の通り、真犯人の元へと向かい、対峙する。
この場で真犯人を語ることはしないが、この場面も心理描写、状況描写ともに大変すばらしいので未読者は是非自分の目で確かめてほしい。

 

独特のコマ割、BDらしいリズムを持ちながらも、マンガ的な表現(漫符など)が多いので読みやすく、また擬人化(と敢えて言わせてもらう)されたハードボイルドな動物たちのサスペンスという日本人にとっても非常に親しみの湧く設定なので、BDファン以外にも多くの読者を獲得した本作。
作者の内側にある、動物たちの暮らすもうひとつの世界をこの作品を通して感じて欲しい。

 

 

 

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